磁気光学フィルター
磁気光学フィルターは、高温のナトリウム蒸気を封入したセルを強い磁場中に置き、磁気光学効果を利用して狭帯域の波長透過特性を実現したフィルターです。透過率が高く、波長基準の絶対値が保障されていてしかも安定であるという特長を持ち、太陽表面のプラズマの運動速度の測定用として優れています。しかし、ナトリウム蒸気の化学的活性のため、その製作は困難とされていました。従来の磁気光学フィルターでは、セルそのものは室温に保ち、セルから突出したナトリウム溜めのみを加熱してナトリウム蒸気を発生させる方式を取っているため、ナトリウム蒸気が露点現象でセルの内面に付着して曇ってしまい、長時間の使用に耐えなかったのです。
我々は、セル全体を200℃程度に加熱し、半恒久的に使用できる磁気光学フィルターの開発を数年に亘り手懸けてきました。セル窓材の温度差による歪みのために、必要以外の波長の光が透過してしまうのが大きな困難点でした。しかし、ガスセルを真空漕に納め、真空漕を外側から水冷する、ガスセルの窓材としてガーネット結晶を用いる、真空容器の窓材に金のコーティングを施して赤外線のリークを減らす、などの工夫によりセル窓材の温度の一様化を達成し、実用可能なフィルターが実現しました。現在、STEPで定常観測を行っています。
- 文献
- 宮崎英昭 他:「磁気光学フィルターの開発と太陽観測への応用」、国立天文台報、2、417-429、1993