観測ロケット実験 CLASP2

CLASP2(Chromospheric LAyer Spectro-Polarimeter)は、太陽から放射される「紫外線」の「偏光」を精度良く測定することで、太陽の高温大気層の「磁場測定」を目指す日米欧国際共同観測ロケット実験です。2015年9月に実施したCLASPの打ち上げ後間もなく開発を開始しました。約3年半の開発を経た2019年4月11日、アメリカのホワイトサンズミサイル実験場で打ち上げ、世界初となる良質な科学データの取得に成功しました(打ち上げの速報はこちら)! また、これらの成功をうけ、CLASP2チームは、NASA/MSFCよりGroup Achievement Honor Award を受賞しました (こちら)。

共同観測を行ったひので衛星で取得したデータと組み合わせて、光球(太陽表面)からコロナ直下(彩層最上部)に至る、高さ方向に連続した磁場の測定に成功しました!初期科学成果の詳細はこちら


CLASP2について

目指すサイエンス

太陽大気は表面(6,000度)よりも上層のコロナ(100万度)の方が温度がはるかに高く、どのような仕組みによってこのような高温大気が作られるのかはまだわかっていません。これをコロナ加熱問題と呼び、これまで様々な研究がなされてきました。なかでも、太陽観測衛星ひので(2006年打ち上げ)やIRIS衛星(2013年打ち上げ)による観測から、太陽表面とコロナの間に位置する「彩層」が重要な役割を果たしていることがわかってきました。ここで鍵となるのが、彩層の「磁場」です。磁場は太陽大気の運動やエネルギーの輸送に常に関与していると考えられており、彩層の磁場を正確に把握することがコロナ加熱の謎解明に近づく道筋なのです。

磁場の測定は、スペクトル線に生じる偏光状態(偏光度と偏光の向き)を観測することで可能となります。しかし、ひので衛星や地上の観測装置といった既存の観測装置では、彩層、特にコロナ直下の彩層上部の磁場を測定することができません。これに取り組むべく、国内外で様々な観測装置の開発が行われていますが、我々が着目したのが、太陽から放射される「紫外線」の偏光です。宇宙からの観測が必須の紫外線の偏光は手付かずの状態でしたが、それを精度良く観測することで磁場情報が得られることが、理論的に予測されたのです。

CLASPからCLASP2へ

国立天文台を中心とした日米欧共同チームは 2015年9月、彩層の磁場情報を得る新たな手法の検証を目的とした太陽観測ロケット実験 CLASP(CLASP2 の前身:Chromospheric Lyman-Alpha Spectro-Polarimeter)を実施しました。CLASPは彩層の中性水素が出す紫外線(ライマンアルファ線、波長121.6 nm)を観測し、理論的に予言されていた太陽大気における散乱偏光、及び磁場による散乱偏光の変化(ハンレ効果による変調)を検出することに成功しました。これによって、太陽観測に新たな扉が開かれ、観測手法の幅が格段に広がりました。

一方で、CLASPによるライマンアルファ線のみでは彩層の磁場を精度よく決定するには至らず、コロナ加熱問題に取り組むにはまだ不十分であるころもわかりました。そこで次に、彩層磁場の向きや強度を得ることを目的としたCLASP2計画を立ち上げました。CLASP2では、彩層中にある電離マグネシウムが出す紫外線(波長280 nm)を観測し、電離マグネシウム線における散乱偏光、ハンレ効果の有無に加え、ゼーマン効果を検出することで、磁場情報の取得を目指します。

CLASPの成果はこちら

CLASP2観測装置

(上)ロケットスキンに入ったCLASP2観測装置。全長約2.5 m。国立天文台にて撮影。(下)CLASP2観測装置の光路図。赤字で示した箇所が、CLASP2で新規に開発したもの。
2019年4月11日 CLASP2打ち上げ

CLASP2観測装置は、望遠鏡、スリットジョー光学系、偏光分光器(偏光解析装置+分光器)の3つから構成されています。中でも特徴的なのが回折格子の役割で、スリットを通った光を分散させるのに加えて、2つの光路に光をわけるビームスプリッターとしても働いています。この光学配置は、CLASP観測装置で考案・採用されたもので(逆Wadsworthマウンティング)、光学素子の枚数を減らすと同時に、高精度偏光観測に必須となる直交2偏光の同時取得が可能となっています。

CLASP同様、CLASP2観測装置の開発も国際協力の下進められました。回折格子をフランスから、CCDカメラをアメリカからそれぞれ提供を受け、光学素子や構体の開発を、国内外のメーカーと協力して進めました。また、各光学素子の紫外線での偏光特性を把握するため、2015年秋に開始した基礎開発からフライトモデルの開発に至るまで一貫して、分子科学研究所・極端紫外光研究施設UVSORでの性能評価試験を行ってきました。各部品の完成後は、国立天文台の先端技術センターにて組み立て、各種試験を実施し、2018年11月、打ち上げを行うアメリカへ出荷しました。アメリカ輸送後は、NASAマーシャル宇宙飛行センターでのNASAフライトコンピュータとの噛み合わせ試験、打ち上げが行われるホワイトサンズミサイル実験場でのロケットとの結合試験などを経て、打ち上げに向けた準備を整えました。

CLASP2の大きな特徴として、CLASPで使用した構体や光学素子を可能な限り再利用したことが挙げられます。飛翔を終えたCLASP観測装置は破損することなく地上に帰還しました。回収した装置を日本に運び、CLASP2に沿った改造を施すことにより開発期間を短縮し、同時に開発費用も抑制したのです。

CLASP2打ち上げ

CLASP2の観測領域(SDO衛星で取得した彩層全面像)

アメリカ・ニューメキシコ州ホワイトサンズのミサイル実験場から現地時間 4月11日10時51分(日本時間4月12日01時51分)、CLASP2 を載せたロケットが打ち上げられました。打ち上げ後まもなくロケットから分離された CLASP2 は大気圏外を弾道飛行し、地上から160 km以上の高度において約6分間、太陽観測を実施しました。観測後、装置はパラシュートを開いて落下、無事回収され、データの取得にも成功しました。

この計画では打ち上げ前に予め3つの観測対象を選定しており、計画通りのデータ取得を行うことができました。この3つの対象とそれぞれの観測時間の内訳は、(1)データ較正のため、太陽面中心で18秒間、(2)ハンレ効果とゼーマン効果を検出し彩層磁場計測を行うため、強い磁場を持つプラージュにて 155秒間、(3)散乱偏光取得のため、磁場が弱い静穏領域で134秒間、です。プラージュ観測データの初期解析では強い偏光信号が検出されており、紫外線観測における初の磁場測定が期待されます。また、静穏領域の観測は、CLASP の結果と比較することで、中性水素による観測と電離マグネシウムによる観測の長所・短所を知ることができ、将来の太陽観測衛星計画を検討する上での重要な判断材料になります。