装置について
SCIPの装置に関連する情報を掲載します。SUNRISE-3の口径1mの主鏡で反射された光が、複数の鏡によって反射されながら観測装置内に導かれます。そのうち、近赤外線の光のみがSCIPに届きます。
性能
SCIPの装置に関連する性能情報を説明します。
SCIPの空間分解能(0.2秒角)は, 人間の視力の300倍に相当します。1秒角は1/3600度になりますので、太陽面上において0.00006度の構造を見分けることが可能です。その微細な構造から発せられる光のうち、2つの近赤外線帯(770nm・850nm)を同時に観測します。これらの帯域における光を、4nm毎に光を分けて観測します。さらにそれぞれの波長において、観測している光のうち何%が偏光しているかを知ることができます。SCIPの典型的な観測方法であれば、0.03%の微細な偏光精度を測定することが可能です。この偏光精度があれば、 彩層であれば5ガウス、光球であれば1ガウス以下の磁場情報まで得ることができます。観測範囲は, 最大で58秒角×58秒角をカバーすることが可能です。
SCIPによる偏光分光観測の要素
回転波長板・偏光ビームスプリッター
光は波の性質を持っており、「偏光」とは光の振動方向がある方向に偏っていることを意味します。通常太陽からやってくる光は偏りなく様々な方向に振動していますが、強い磁場がある太陽大気からくる光の振動は偏っている性質を持ちます。その偏り状態を測定することで太陽大気中の磁場の性質を読み解くことができます。
SCIPでは、回転波長板を用いた偏光測定を行なっています。波長板は、光の振動方向をズラします。「横方向に振動していた光が、縦方向に振動する」といったように方向がズレるのです。波長板を常に回転させているので、光が波長板にあたるタイミングによって振動方向のズレ度合いが変化します。その後、光は「偏光ビームスプリッター」に到達します。これは、"ある方向に振動している光のみ"を透過させます。そのため、カメラに映る光は、この振動方向のズレ度合いに応じて明るくなったり暗くなったりします。この明暗度から元の偏光状態を逆算することができます。
スリット・回折格子
スリット面には、小さな短冊状の穴(スリット)が空いています。この面に光があたると、スリット箇所のみ光が通過できますので、スリット面以降は縦長の光のみが進んでいくことになります。
この1次元の光は「回折格子(グレーティング) 」にたどり着きます。回折格子は、光を波長方向に分散させて反射させます。ここで、縦長の光(1次元)が横方向に分散されて、2次元の光となるのです。ただし、ここでの2次元とは、縦空間✕横空間ではなく縦空間✕波長になります。このように、私たちは分光データ(3次元情報: 2次元空間×波長)が欲しいのですが、一方でカメラが一度に撮れるのは2次元の光ですので、1次元の光のみをスリットで取り出しておく必要があるのです。
波長分割フィルター・カメラ
このフィルターは、850nm帯の光は透過し、770nm帯の光は反射される性質を持っています。2つの波長帯の光を同時に観測できるように分け、それぞれ撮像できるように2つのカメラが配置されています。
スキャンミラー機構
上記のようにスリットを透過する光のみを撮像するのであれば, 1次元の光のみしか捉えられないことになります。しかし実際に捉えたい太陽像は2次元空間に広がっています。そこでスリットを通過させる太陽像を変えることにより、2次元空間のデータを手に入れられます。この役割を担うのが、スキャンミラー機構です。鏡をほんの僅かに傾けることで、鏡に反射された像の位置をズラすことができるというものです。スキャンミラー機構は、光がSCIPに入る直前の場所に配置されますので、スリットに通過させる1次元の光を変えることができます。この操作を何度も繰り返すことで、2次元空間の(偏光)分光データを得ることができるのです。
高空間・波長分解能を実現する光学設計
口径1mのSUNRISE-3気球望遠鏡の性能を最大限発揮するために、SCIPでは光の波面を歪まさないための多くの工夫が行われています。光学システムの肝である2枚の非球面鏡の鏡表面の歪みは、6 ナノメートル(RMS)と非常に高精度です。SCIP内で光路を2つに分割するフィルタでは、両面に異なるコーティング膜をつけるため光学素子がわずかに歪むのですが、相殺膜の厚みを微調整することで変形をキャンセルさせています。これらの光学系設計、光学素子設計の工夫により、光学系全体で生じる光の波面の歪みを抑えています。