気球概要
口径1mの望遠鏡を搭載し、太陽観測を行う国際共同気球実験です。ドイツ・スペインが中心となって推進されており、アメリカ/NASAの⻑期滞空気球計画によって実施されています。これまで2009年と2013年の2度の飛翔実験が行われ、多くの科学成果が創出されました。
SUNRISE実験の特徴
空の上からの太陽観測
SUNRISE実験の特徴は、「大口径の望遠鏡を成層圏まで運び、そこから太陽を観測する点」です。到達高度は35kmになり、ほぼ宇宙空間に近い環境です(質量99%以上の地球大気がこの高度以下に存在します)。そのため、天体から届く光はほぼ地球大気を通過することなく、直接観測することができます。一方、地上から星を観測する場合、天体からやってきた光が地球大気中を通過する際に屈折してしまうため、キレイな画像を得ることが困難です。成層圏では地球大気がほとんど存在しないため、非常に鮮明な画像を捉えることができます。
大口径望遠鏡による太陽観測
SUNRISEの口径(1m)は、飛翔体太陽望遠鏡としては世界最大となります。太陽観測衛星「ひので」は世界最大の宇宙望遠鏡(口径:50cm)ですが、その2倍に匹敵します。口径が大きければ、その大きさに比例して細かい構造を観測することができます。また、その口径の面積に応じて光を集めることができるので、高精度な観測が可能になります。
SUNRISE-3に搭載される装置
気球のゴンドラには、望遠鏡が搭載される他、主に3つの科学装置と2つの機器が搭載されます。望遠鏡によって捉えられた太陽光は、どのようにして観測されるのでしょうか。
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■ISLID(光分配装置)ゴンドラからやってきた太陽光を、波長毎にそれぞれの機器(SUSI・TuMAG・CWS・ISLID)に分配します。ドイツ/マックスプランク研究所が開発しました。
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■SUSI (近紫外線偏光分光偏光)紫外線の偏光分光装置です。ドイツ/マックスプランク研究所が開発しました。観測する波長帯(309-417nm)の大部分は地球大気に吸収されてため、地上から観測することが困難な光です。
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■TuMAG(可視光撮像偏光分光装置)可視光の撮像偏光分光装置です。スペイン/アンダルシア天体物理学研究所が開発しました。他の観測機器と異なり、撮像観測方式(ある波長の光において、2次元空間を同時に観測)を取っています。
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■SCIP(近赤外線偏光分光装置)近赤外線の偏光分光装置です。日本が開発しました。
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■CWS(像安定化装置)リアルタイムで望遠鏡の振れ(像ブレ)をモニターし、そのブレを補正させることで高解像度の太陽画像を得ることを可能にします。ドイツ/キーペンホイヤー太陽物理学研究所が開発しました。
飛翔スケジュール
SUNRISE-3は、スウェーデン北部のキルナ近郊にあるエスレンジ射場において飛翔します。大西洋を横断し、カナダに着陸します。この間の飛翔期間(1週間)が、太陽を観測する期間です。飛翔時期は、2022年6月を計画しています。この時期は、北極圏(スウェーデン・カナダ)において太陽が沈まない期間(白夜)となります。太陽が沈まず常に見えていることは、太陽観測の時間そのものを伸ばせることになります。特にSUNRISEといった気球実験は、飛翔期間が一週間程度と限られているため、大きな利点です。
SUNRISE-3が太陽観測を行える時間は一週間程度と見積もられており、限られた時間内で様々な観測を実施します。カナダに着陸した後、取得したデータや観測装置を回収します。
気球観測の利点
地上望遠鏡との比較
地上観測と比較すると、地球大気ゆらぎの影響を受けないことが大きな利点です。これにより、非常に鮮明な天体画像を得ることができます。また、地上に届かない波長の光を観測することができます。例えば、紫外線は地球大気に大きく吸収されてしまうため、地上から観測することは困難です。SCIPが捉える近赤外線光の一部も地上では観測できないのですが、気球観測によって捉えることが可能になります。
宇宙望遠鏡との比較
コストですが、1~2桁以上安く抑えられます。また、大型・大質量の搭載能力があります。実際SUNRISE-3は、2トン以上の機器(大口径望遠鏡や複数の観測装置)を搭載します。気球に搭載した観測装置を回収し、再利用することも利点です。回収できれば、観測データが多量であっても飛翔中に伝送する必要がなく、後に直接データを読み出すことも可能です。他には、準備期間を短くできる利点があります。これは、放球時の衝撃が小さく、飛翔中の環境条件(温度など)も衛星のような厳しさは無いといったことから、短期間で準備が整うことが理由です。
SUNRISE-3の新しい点
「太陽表面(光球)から上層大気(彩層)をシームレスに物理量(温度・速度・磁場)を診断できる点
にあります。過去のSUNRISE-1,-2実験や太陽観測衛星「ひので」の彩層観測装置には、偏光分光観測装置は実装されませんでした。SUNRISE-3実験では、既存の観測装置であった可視光撮像装置(IMaX)および紫外線撮像装置(SuFI)を大幅にアップグレードし、さらに新しく近赤外線偏光分光装置を搭載します。これにより、光球だけでなく彩層までの偏光分光観測を行うことが可能になり、太陽大気中における3次元温度・速度・磁場構造を診断できるようになります。