トピックス No.11 バックナンバー

近赤外線太陽全面像で見たインターネットワーク磁場

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 太陽の表面には、黒点を含む活動領域に加え、太陽全面にひろがる超粒状斑ネットワークの境界にも強い磁場があります。ではその超粒状斑の内部 (インターネットワーク) はどうなっているのでしょうか。実はその内部は、インターネットワーク磁場と呼ばれる、弱く小さな磁気要素に満たされていることが知られています。しかしその特徴については、可視光で観測した結果と近赤外線での結果が異なるなど、まだ議論になっている点があります。

 そこで私たちは、今まで高空間分解能で細かく見ることで観測されてきたインターネットワーク磁場を太陽全面像で広くとらえるという、全く異なった視点から探ることを試みました [1]。使用したのは、国立天文台の太陽フレア望遠鏡の定常観測で2010-2019年に得られた近赤外線のFe I 1564.8 nm吸収線の太陽全面偏光観測データです。

 図1は、視線方向磁場をあらわす円偏光の太陽全面像で、白黒がN極・S極に対応しています。左半分は比較的強い磁場 (1.1 kG = 110 mT) の信号で、黒点周辺や超粒状斑境界に強い信号が集中しています。一方、右半分には400 G (= 40 mT) 以下の弱い磁場を示しています。ざらざらした信号が見えていますが、これが小さなN極・S極の成分が太陽全面を覆いつくすインターネットワーク磁場です。Fe I 1564.8 nm観測では、大きなゼーマン効果により、弱い磁場 (400 G以下) の信号だけを取り出すことができるのです。

 右半分をよく見ると、太陽中心付近よりも周辺の方がより強くざらざらしているのがわかります。これは、インターネットワーク磁場では太陽表面に水平な成分が多いことを示しており、太陽表面に垂直な磁場を持つ超粒状斑境界とは対照的です。このような特徴を持つ超粒状斑の境界・内部の磁場構造の模式図を図2に示しました。インターネットワーク磁場に水平な成分が多いという結果はこれまでも出されていましたが、異を唱える結果も出されており、今回の私たちの結果は、従来とは異なった視点からの解析でもやはり水平成分が多いことを示したものになりました。

 また2010-2019年にわたるデータから、その間にインターネットワーク磁場の性質の変動が見られないこともわかりました。2010-2019年は太陽活動周期第24期の大半にあたり極小期も極大期も含んでいますが、それとは関係なくインターネットワーク磁場は安定に存在しているわけです。

 太陽は磁場に満ちた星で、様々な磁気現象を起こし、その影響は太陽系全体に広く及んでいます。しかし、激しい現象を起こす磁場とは別に、太陽全面を覆う弱い磁場も常に存在しています。このようなインターネットワーク磁場を解明することは、太陽の、そして星の磁場がどのように生まれどのように変転していくのかをとらえるためのひとつの基礎となります。

[1] Hanaoka and Sakurai 2020, Astrophysical Journal, 904, 63, doi: 10.3847/1538-4357/abbc07

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図1. 太陽表面磁場の2つの顔。2014年5月10日の、視線方向磁場をあらわすFe I 1564.8 nm吸収線の円偏光の太陽全面像です。上が太陽の北。白黒がN極・S極に対応しており、左半分には1.1 kGに相当する磁場信号、右半分には400 Gに相当する磁場信号を表示しています。

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図2. 超粒状斑の磁場構造の模式図。境界の強い磁場はコロナへと伸びていますが、それとは別にインターネットワークは、小さなスケールでいろいろな方向を向いた弱く水平な磁場に覆われています。

2020年11月25日更新