トピックス No.9 バックナンバー

太陽フレアの謎の偏光をさぐる

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 太陽面で起きる爆発であるフレアが放つHα (エイチアルファ) 線の輝きには、偏光が見られるという報告がいくつもあります。一方それを否定する結果も出されており、その性質は謎でした。今回私たちは、多くのフレアの観測からこの偏光が一部のフレアでのみ起こる現象であることを明らかにしました。観測の結果からは、この偏光が惑星間空間へのコロナ物質の放出に伴う高エネルギー現象と関係あることがうかがえます。

 偏光は光 (電磁波) の振動方向に偏りがある状態です。フレアからのHα線が直線偏光しているということは、そこに何らかの非等方性があることを示しています。したがって偏光は、フレアを起こしている太陽大気の状態や加速された粒子を理解する手掛かりになります。そこで私たちは、三鷹の太陽フレア望遠鏡に従来よりも高い精度で偏光を測定できるよう工夫したHα偏光観測装置を組み込み、多数のフレアについて偏光を調べました。

 2004年から2005年にかけて観測された71個のフレアを解析したところ、ほとんどのフレアは偏光を見せませんでしたが、ただ1つだけ偏光を示すフレアを見つけることができました[1]。これを詳しく調べてみると、のようにHαで最も明るい場所とは異なる所で強い直線偏光信号が出ていることがわかりました。この結果は、Hαでの偏光が、どのフレアにも見られる一般的な現象によるものではなく特定のある種のフレアだけにしか見られない原因で発生していることを示しています。

 このフレアでは、コロナ質量放出という惑星間空間にプラズマを吹き飛ばす現象の兆候が現れていました。近年、Fermi衛星によるガンマ線観測では、コロナ質量放出に伴う加速陽子の存在の可能性が見えています。このような加速陽子がHαでの偏光の原因であるとすると、一部のフレアでしか偏光が見えないことも理解できます。粒子加速は、太陽に限らず宇宙全般で起こっているまだ未解明の部分が多い現象です。本研究のようなフレアにおけるHα線の偏光観測は、粒子加速のひとつの現場を明らかにし、粒子加速問題を理解する手掛かりのひとつになります。

[1] Kawate1 and Hanaoka2, 2019, The Astrophysical Journal, 872, 74, DOI:10.3847/1538-4357/aafe0f ( 1宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、2自然科学研究機構 国立天文台 )

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. 強い直線偏光が見られたフレアにおけるHα放射強度、直線偏光とフレア発生中の光球・コロナの画像。各画像中の等高線はHα強度の上昇している場所を表しており、直線偏光画像の緑矢印で示した場所に強い直線偏光が見られます。またコロナの画像の水色矢印は直線偏光の方向を示しており、コロナループ構造と対応しています。光球の白色光画像とコロナの紫外線画像は、ESA・NASA共同のSOHO consortiumの厚意によるものです。

2019年2月25日更新