トピックス No.7 バックナンバー

ダークフィラメントの磁場は半球ごとに決まった方向を向いている

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 太陽表面には、プロミネンスと呼ばれる低温のガスがコロナ中に浮いているのが見られます。このプロミネンスは太陽のディスク上に来ると暗く見えるため、ダークフィラメントと呼ばれます。このプロミネンス/フィラメントが浮いているのは太陽表面の磁場に支えられているからですが、その磁場は、太陽内部のダイナモ作用で作られたものが表面に現れたものです。太陽内部はもちろん見えませんが、表面の黒点などの磁場を統計的に見ることで、太陽の磁場全体の構造と進化を探る研究が行われています。そこで今回はフィラメント磁場を統計的に調べました。

 国立天文台の太陽フレア望遠鏡では、2010年以来、赤外マグネトグラフにより磁場を測定する観測を行っています。そのうちのひとつであるヘリウム起源の10830 Å吸収線を用いた磁場観測では、直線偏光の測定からフィラメントの磁場の情報を得ることができます。図1は、水素のHα線でのフィラメント(a)とヘリウム直線偏光で見たフィラメント磁場(b)の比較で、フィラメント磁場がHα線で見えるフィラメント中の微細構造に平行で、全体としてフィラメントの軸方向から若干時計回り (右下の図参照)の角度で整列していることがわかります。

 太陽フレア望遠鏡ではこのようなデータが多く蓄積されているので、今回2010~2016年の観測の中から438個のフィラメントを選び、フィラメントの磁場がどちらを向いているのかを調べました (Hanaoka & Sakurai 2017, Astrophysical Journal 851, 130)。図2はそれぞれのフィラメントについて、太陽面上の緯度と、平均的な磁場方向のフィラメントの軸からの傾きを示したもので、点が集中している第2・4象限は、右側の絵のように、磁場がフィラメントの軸から、北半球では時計回りに、南半球では反時計回りに、つまりいずれも西側が赤道へ向かうように回転しているのに対応しています。このことは、フィラメントの磁場構造はそれぞれ勝手に生成されているわけではなく、太陽内部の大きな構造の磁場を反映しており、おおむね半球によって決まる構造を持っているということが判明したわけです。したがって、フィラメント磁場は太陽全体の磁場進化の中で形成されているのであり、フィラメントがしばしばコロナ質量放出の一部として噴出するのも、その磁場進化の過程の中で起こることであろうことが推測されます。フィラメント磁場観測から、ダイナモで生成された太陽内部の磁場から表面磁場への発展と、フィラメントの生成・噴出を解明するための重要な情報が得られるわけです。

topics0007_figure1.png

図1 2014年11月23日に観測された北半球のフィラメント。(a)はHα線での画像、(b)は磁場の方向を赤い線で示しています(背景は光球磁場)。右下隅では、フィラメントの軸方向を実線で、磁場の平均的な方向を点線で示していて、この例では磁場がフィラメント軸から時計回りにずれていることがわかります。(©国立天文台)

topics0007_figure2.png

図2 左は、今回調べた438個のフィラメントの、出現緯度と平均的な磁場方向のフィラメント軸からのずれ角の比較。シンボルの色や形はそれぞれのフィラメントの特性ですが、詳細は省略します。右は、左の図の各象限でのフィラメント(赤)における磁場(黒実線)の傾きを模式的に示したものです。(©国立天文台)

2018年1月10日更新