2023年4月の太陽活動 バックナンバー

solar cycle

 黒点相対数の変動。緑線・青線・赤線はそれぞれ2018年1月以降の太陽全体・北半球・南半球の13カ月移動平均の黒点相対数で、最近半年分は同じ色の点で示しています。黒点相対数が小さいときの変化を見やすくするため、グラフ縦軸の目盛りは小さい数を拡大して見せるような不等間隔になっています。

 現在の第25周期の黒点数を以前の値と比べられるよう、極小(2019年12月、縦の点線)をそろえて過去の各周期の相対数(太陽全体)もプロットしました。灰色の実線が第24周期、点線がそれ以前の周期を表します。

 第25周期の活動度については、最近100年で最低となった第24周期よりさらに低くなるというものも含め、様々に予想されてきましたが、グラフを見ると、第24周期と同等もしくはそれを上回る活動になっていることがうかがえます。
→ 2023年の黒点相対数

4月の太陽:黒点望遠鏡 連続光・G-Band・CaK Hα線 赤外線偏光

 2023年4月も比較的活発な太陽活動が続きました。特に注目されるのは、現太陽活動周期で最大となる磁気嵐を引き起こしたコロナ質量放出が発生したことです。コロナ質量放出は日本の夜に起こりましたので私たちの観測はありませんが、噴出を起こした活動領域を紹介します。

 この領域はNOAA13283で、4月15日ごろ東リムから見え始め、4月26日ごろに西に沈んでいきました。図1に、太陽フレア望遠鏡でとらえたこの領域の様子を示しています。この領域に属する黒点は、上の白色光像に矢印で示したものだけで、まわりの黒点は別の領域のものですから、小さい黒点だけを持つ小規模群のように見えます。しかし、下のHα線像では、大きなフィラメントを従えているのが分かります。

 図1でもフィラメント周辺が光っているのが見えているように、このフィラメントは活発な活動を示していました。図2 (ムービー)は、4月20日のこのフィラメントの様子です。上にHα画像、下に同じHαでの視線速度場図を示しています。速度場図では、赤と青で向こうへ去っていく動き(赤方偏移)とこちらへ向かってくる動き(青方偏移)を示しています。Hα画像でも速度場図でも、フィラメントでは1日中ずっとプラズマの流れが見えており、ムービーに見える他のフィラメントと異なり顕著なプラズマの運動があることが分かります。なお、この4月20日には、オーストラリアやインドネシアで見られる金環皆既日食が起こり、日本の一部での部分食が見られましたが、三鷹は範囲外でした。

 この4月20日には大きな噴出は無かったのですが、その後4月21日18:12UTにM1.7フレアが起こり、このときに、このフィラメントの一部の噴出を含むコロナ質量放出が発生しました。放出されたコロナプラズマは4月23日には地球に到達し、地球磁気圏のやや大きな変動を引き起こしました。地磁気の変化は、Dst指数(地磁気変化量を示す指数のひとつ)で-187nT(ナノテスラ)に達し、現太陽活動周期で最大を記録しました。

 フレアはM1.7と特に大きなものではなかったのに磁気嵐としては規模が大きくなったのは、フレアが太陽の中央やや西という、放出されたプラズマがちょうど地球へ向かって来やすい位置で起こったことなどの他、フィラメント周辺の磁場構造にも原因があります。図3に、4月21日のフィラメントとその周辺の磁場の様子、SDO衛星AIA装置でとらえられた紫外線でのフレアループの様子を示しています。緑の四角がフレアの中心部分です。Hα+磁場の図では、白と黒がそれぞれ太陽表面上のN極・S極の分布を示しており、両極の間に細いHαフィラメントが見えています。右の模式図に示したようなN極からS極へ向かう磁力線に沿うループが紫外線像で見えています。右図のように地球の北の方向はやや傾いているため、おおむね地球の南方向を向いている磁力線がフレアにより惑星間空間へ放出されたと考えられます。

 地球の磁場は、南極から北極へ向かう北向きであるため、地球に向かって飛んできたコロナプラズマが南向きの磁場を持っていると、容易に磁気再結合を起こして地磁気の乱れを発生することになります。今回の磁気嵐はまさにこのような条件で発生しました。太陽表面のフィラメントや磁場の観測は、磁気嵐という地球での現象がどのように起こるか、の情報ともなるものなのです。
(AIA装置による画像は、NASA/SDO及びAIA科学チームの厚意により掲載しています。)


図1. 太陽フレア望遠鏡で撮影した、NOAA13283の白色光像及びHα線像。NOAA13283に属する黒点は矢印で示したものだけで、ごく小さい黒点群のようですが、Hα線像では発達したフィラメントが見えています。


図2 (ムービー). 太陽フレア望遠鏡で2023年4月20日に撮影した、NOAA13283のHα線中心(上)と、同じくHα線でのドップラー速度(下)のムービー。赤と青は、赤方偏移・青方偏移に対応しています。


図3. 2023年4月21日の、フレア前のHα線中心での画像に磁場分布(白と黒がN極とS極に対応)を加えた図(左)と、SDO衛星AIA装置による紫外線でのM1.7フレアの画像(中)。緑の四角はフレアの中心で、この部分は模式的には右の図のような磁場構造をしていると考えられます。