2022年2月の太陽活動 バックナンバー

solar cycle

 黒点相対数の変動 (13カ月移動平均)。緑線・青線・赤線はそれぞれ1996年5月以降の太陽全体・北半球・南半球の黒点相対数、点線 (黒) は過去の周期における黒点相対数を極小を1996年5月に揃えてプロットしたものです。黒点相対数が小さいときの変化を見やすくするため、グラフ縦軸の目盛りは小さい数を拡大して見せるような不等間隔になっています。

 太陽活動第23周期から第24周期にかけての極小 (2008年12月) は、極小になった時の黒点相対数の値が小さくその時期も遅れました。極小の時期が遅くなったことにより、太陽活動第23周期は平均よりも長く1996年5月から12年以上継続したサイクルになりました。

 太陽活動第24周期は、2008年12月から2019年12月までの11年間継続し、継続期間は平均的な長さでした。一方で活動度は低調で、三鷹での1929年以降の観測では黒点相対数の極大が最も小さく、世界中の観測を集計したSILSOの記録でも108年ぶりに低い極大となった周期でした。2019年12月の極小値も前回を下回り、三鷹での観測では黒点相対数が過去最低となっています。南北別に見ると活動の非対称性が目立ち、北半球が2011年後半に極大を迎えたのに対して南半球は遅れて上昇し2014年に極大を迎えました。その後、両半球とも黒点相対数が減少していますが、単純な減少ではなく一時的に停滞した期間があります。

 太陽全体での黒点相対数は、2020年1月から増加しており、現在の太陽活動サイクルは第25周期です。
→ 2022年の黒点相対数

2月の太陽:白色光 Hα線 赤外線偏光

 2月は、黒点観測を24日間実施できました (白色光画像の2月のデータベースカレンダー)。NOAA (※1) が認定した活動領域は、1月のNOAA 12934とNOAA 12936~12940が引き続きあり、NOAA 12941~12958の18群が新たに出現しました。無黒点の日はなく、黒点相対数の月平均値は55.00 (北半球 34.25、南半球 20.75) となりました。この結果は、北半球値では第25周期の最大値を更新し、全体値では2番目に大きなものです。

 フレアの月間発生数は、1月の81%ほどになり2カ月連続で減少しています。GOES (※2) 衛星のX線観測では、X線強度Bクラス以上のフレアが205回確認されました。MクラスフレアはNOAA 12939とNOAA 12941で計3回発生しましたが、すべて日本での夕方~夜の時間帯だったため三鷹では観測できませんでした。

 この月はまた、太陽の活動が宇宙開発に影響を及ぼした事例もありました。それは、2月1日に地球に到来したコロナ質量放出 (CME) とそれに引き続く太陽風の速度と磁場の変化です。このCMEは1月29日に活動領域12936で発生したM1.1フレア (図1) に伴って噴き出したもので、3日弱で地球に到来しました。CMEが通過した2月1~2日にも磁気圏は少し乱れましたが、CME通過後に太陽風の速度が秒速500 km以上になりさらに磁場が長時間にわたって大きく南を向いたため、2月3~4日にかけて磁気嵐が2回発生しました。どちらも規模としては5段階評価 (G1~G5) で最弱のG1、Dst指数で見ると最小値-61~-66 nTで特に激しいものではありませんでしたが、3日に打ち上げられたばかりのスターリンク通信衛星群49機がこの磁気嵐による大気膨張の影響を受け、その大部分が大気圏に再突入して失われました [参考:総務省 宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会 (第4回) 配布資料]。宇宙天気現象が人工衛星に損害をもたらした例として注目されます。

  目を引いた現象は、フレアやCME・太陽風だけでなく、2月4~8日にかけて南東の縁で見られたプロミネンスもありました。このプロミネンスを太陽フレア望遠鏡で連日観測できましたので紹介します。図2では、Hα線でとらえたプロミネンス拡大画像と2月8日の太陽全面像を並べています。4日の時点では背が低く幅が広いプロミネンスが見えていましたが、1日経つごとに全体の形状が変化し高さも増しているのがわかります。4日の時点でおよそ40,000 km だった高さは、8日にはおよそ120,000 km (地球直径の約10倍) に達し、ひときわ目を引くプロミネンスになりました。向こう側の半球に隠れていたものが太陽の自転で縁に移動してきたことによる見かけの変化がありますが、7日と8日の画像で見られる差異はプロミネンス自体の変形と思われます。

 背が高いプロミネンスは、それを支えている磁場が突然不安定になり噴出するのが度々観測されます。安定しているように見えたこのプロミネンスも、8日の日没までにゆっくりと噴出しました。ムービーでは、最初は動きが無かったプロミネンスが5:00 UT (日本標準時14:00) 頃から少しずつ持ち上がりはじめ、7:13 UT (日本標準時16:13) までに噴出して見えなくなる様子がわかります。噴出したプロミネンスは、その後CMEになったことが確認されています。
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※1 NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration (米国海洋大気局。この機関によって太陽活動領域に番号が振られる。)
※2 GOES: Geostationary Operational Enviromental Satellite (米国 NOAAの地球環境観測衛星。地球に降り注ぐ軟X線の総フラックスも常時モニターしている。)
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H-alpha full-disk image of the Sun on January 29, 2022
図1. 2022年1月29日23:50 UTに太陽フレア望遠鏡で撮影した太陽のHα線全面像。同日23:32 UTに活動領域NOAA 12936で起こったM1.1フレアによる発光をとらえています。発生場所が地球の正面に近く、このフレアで併発したCMEは2月1日に地球に到来しました。

H-alpha images of a solar prominence during February 4-8, 2022
図2. (左パネル) 2022年2月4日~7日に太陽の南東の縁で見られたプロミネンスのHα線拡大像と(右パネル) 2月8日のHα線太陽全面像。右パネル中の水色の四角形は左パネル中のそれぞれの拡大画像で写している範囲とムービーの表示範囲を示しています。[太陽フレア望遠鏡で撮影]


ムービー. 2022年2月8日の5:00 UT~7:13 UTにかけて南東の縁で見られプロミネンス噴出を観測したHα線ムービーと説明図。 [太陽フレア望遠鏡で撮影。図をクリックするとムービーが再生されます。別の画面でムービーを見たい場合は「新しいタブでムービーを見る」、説明図を見たい場合は「新しいタブで説明図を>見る 」]