2020年5月の太陽活動 バックナンバー

solar cycle

 黒点相対数の変動 (13カ月移動平均)。緑線・青線・赤線はそれぞれ1996年以降の太陽全体・北半球・南半球の黒点相対数、点線 (黒) は過去の周期における黒点相対数を極小を1996年に揃えてプロットしたものです。黒点相対数が小さいときの変化を見やすくするため、グラフ縦軸の目盛りは小さい数を拡大して見せるような不等間隔になっています。

 前の太陽活動サイクルから今サイクルにかけての極小は、極小になった時の黒点相対数の値が特に小さくその時期も遅れました。極小の時期が遅くなったことにより、前回の太陽活動第23周期は平均よりも長く12年以上継続したサイクルになりました。

 現在の太陽活動サイクルは第24周期にあたり、太陽全面で見ると2008年末から始まって2014年に極大を迎え、その後は現在まで減少を続けています。一方で南北別に見ると活動の非対称性が目立ち、北半球が2011年後半に極大を迎えたのに対して南半球は遅れて上昇し2014年に極大を迎えました。その後、両半球とも次の極小に向かって黒点相対数が減少していますが、単純な減少ではなく一時的に停滞した期間があります。太陽全体での黒点相対数は現時点でも増加傾向を見せず、第24周期と次の第25周期の境界となる極小期はまだ確定していません。
→ 2020年の黒点相対数

5月の太陽:白色光 Hα線 赤外線偏光

 5月は黒点観測を20日間実施しましたが、黒点を見ることができたのはただ1日だけ (5月1日) でした (白色光画像の5月のデータベースカレンダー)。黒点相対数の月平均値は0.55 (北半球 0.00、南半球 0.55) となり、3月と同じで低調な黒点出現状況に戻りました。

 黒点出現が低調な一方で、太陽フレアの発生は目を引くものがありました。NOAA (※1) のGOES (※2) 衛星による観測では、5月はX線強度Bクラス以上のフレアが20回発生しました。このうち19回は27日から29日までの間に集中 (図1) していて、最大のものは29日の07:24 UTに太陽の北東の縁で起こったM1.1フレア (図2) でした。Mクラスフレアの発生は2017年10月20日以来で、およそ2年7カ月ぶりです。このときフレアを起こした活動領域はまだ太陽の裏側にあったため、上空の加熱された太陽コロナから放射されるX線ではフレアの増光が見えたのに対し、低高度の彩層が見えるHα線では07:24 UTより少し前に縁が小さく光ってわずかに物質が噴きあがる様子だけがとらえられました (図3)。多数のフレアを発生したこの領域は、6月初めにこちら側の半球に姿を現し、第25周期に属する活動領域と確認されました [NOAA AR 12764]。

 5月に発生した20回のフレアを規模別に分類すると、大きな順からMクラス1回 (M1.1)、Cクラス2回 (C9.3、C1.0)、Bクラス17回となり、X線強度が小さいフレアほど発生数が多いことがわかります。フレアのエネルギーが小さくなると発生頻度が一定の比率で増えていくのですが、面白いことに太陽表面で起こっているBクラスフレアよりはるかに小さな突発増光から、他の恒星で見られる超巨大フレアに至るまで同じような傾向を示すことがわかっています。太陽などの恒星で起こるこれらの爆発的現象が、規模や星は違っても同じ物理機構で駆動されていることがうかがえます。
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※1 NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration (米国海洋大気局。この機関によって太陽活動領域に番号が振られる。)
※2 GOES: Geostationary Operational Enviromental Satellite (米国 NOAAの地球環境観測衛星。地球に降り注ぐ軟X線の総フラックスも常時モニターしている。)
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GOES_lightcurve_202005.png
図1. 2020年5月27日00:00 UTから30日00:00 UTまでの間にNOAAのGOES衛星が観測したフレアのX線強度変化グラフ。M1.1、C9.3、C1.0のフレアにはラベルを付け、16回のBクラスフレアはX線強度のピーク箇所を白丸で指示しています。[Andreas Möller氏によるGOES X-Ray Flux Archive (https://www.polarlicht-vorhersage.de/goes-archive. CC BY-SA 3.0) で作成しました。]

He_enhanced_M11flare_202005.png
図2. 2020年5月29日07:21 UTに太陽フレア望遠鏡で撮影した太陽のHα線全面像。図中の白い四角枠の中心付近に見える北東の縁で、07:24 UTにM1.1フレアが発生しました。

M11flare_HaEUV94_20200529.png
図3. 2020年5月29日07:24 UTに太陽の北東の縁で起こったM1.1フレアを (上) 極端紫外線 (波長9.4 nm. NASAのSDO衛星AIA装置による) と (下) Hα線 (波長656.3 nm. 太陽フレア望遠鏡Hα撮像装置による) で観測したときの時間変化。M1.1フレアは、07:24 UTにX線強度が最大になりX線と同様に高温の太陽コロナから出る波長9.4 nmの極端紫外線でも同時刻に明るく見えていますが、Hα線ではそれよりも早く07:21 UTに閃光を確認でき縁からわずかに物質が噴きあがる様子がとらえられました。