
黒点相対数の変動(13カ月移動平均)。緑線・青線・赤線はそれぞれ1996年以降の太陽全体・北半球・南半球の黒点相対数、点線(黒)は過去の周期における黒点相対数を極小を1996年に揃えてプロットしたもの。前太陽活動サイクルから今サイクルにかけての極小は、特に深い極小でまた時期も遅れました。現在の太陽活動サイクルは、北半球が2011年後半に極大を迎えたのに対して、南半球は遅れて上昇し、2014年に極大を迎えました。その後、極小期に向かっていますが、北半球の黒点数がゆるやかに減少しているのに対し、南半球は無黒点日が増加するなど先行して急速に減少しており、前サイクルとは異なった様子を見せています。
→ 2017年の黒点相対数
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9月の全球での月平均黒点相対数は 38.32 でした。南北半球別で見ると、北半球が 21.63、南半球は 16.68 でした。黒点相対数が南北半球共に本格的な下降傾向に入ったと3ヶ月前に報告しましたが、9月は例外的に活発で、この一年ほどの平均的な数値の倍程度の値を記録しました。しかしながら十分に太陽活動周期減衰期での数値です。
9月のフレアの発生数は、米国 NOAA GOES 衛星(※1, ※2)の観測結果によると、X線強度別に、Cクラスが68回、Mクラスが27回、Xクラスが4回でした。黒点相対数の増加に比して、エネルギーの大きなフレアの発生が非常に活発な月となりました。Xクラスのフレアの発生は、2015年5月5日の GOESクラス X2.7 のイベント以来、実に2年4ヶ月ぶりでした。それだけでなく、発生したXクラス4例のうちの2例は、それぞれ、X9.3、及び、X8.2 と、通常のXクラスの10倍 (X10クラス) に迫るX線強度を記録しました。これら2例は、今太陽活動周期最大のX線強度を持つフレアとなりました。
9月に発生した全フレアのうち、Mクラス以上の全て(Mクラス27回、Xクラス4回)と、Cクラスの8割が、単一の活動領域 NOAA12673 (図1) にて発生しました。活動領域 NOAA12673 は、太陽の自転の2周にわたり存在していた活動領域の、その広範な残骸に囲まれた小さな黒点の脇に、新しい磁束が急速に浮上、発展したものでした(「トピックス」「8月の太陽」)。同様の条件で浮上した活動領域が、大きなフレアを複数起こす例を、各太陽活動周期減衰期に数例程度見かけます。9月は他に、もう一例、大きな活動領域が出現しました(NOAA12674: 図1)が、こちらでは、Cクラスのフレアが7回と、特別活発ではありませんでした。
最後に、三鷹太陽フレア望遠鏡の観測装置が捉えた、準X10クラスフレア(10-Sep_2017 16:06UT: 図2) の、Hαポストフレアループと呼ばれる現象を、ひので衛星軟X線望遠鏡(XRT)が観測した、より高温の軟X線フレアループと比較しながら紹介いたします(図3, ムービー)。通常、寿命の長いフレアでも、7時間程度で元のX線強度に戻ります。ですがこのフレアは、14時間程度も増光していた非常に長寿命のものでした(図2)。図3は、軟X線ピーク後8時間でのものですが、まだ強く増光していたことがわかります。
Hαポストフレアループ(図3・左)と軟X線のフレアループ(図3・右)を比較すると、より低温(1万度程度)のHαポストフレアループでは、素直な丸い形状をしているのに対し、より高温(数百万度~1千万度程度)の軟X線フレアループでは、カスプ様構造と呼ばれる先端が尖った形状をしていることがわかります。
太陽フレアは、コロナ中に電流として溜め込まれた磁気エネルギーを、磁束菅の繋ぎ換えを起こすことにより急激に開放していると解釈されています。その繋ぎ換えの場所が、軟X線フレアループの尖った先端の上空にあたると考えられています。開放された磁気エネルギーが磁力線群に沿って下方に伝わり、足元の一万度程度の彩層物質を急速に加熱し蒸発させ、上空の磁力線群を満たしたものが軟X線フレアループだと考えられています。蒸発した高温のガス(数百万度~1千万度程度)は、時間の経過と共に放射によって冷えて凝縮し、再び1万度程度になったものがHαポストフレアループです。冷却凝縮して重力の影響を強く受け、毎秒 50 ~ 100 km 程度の自由落下速度で磁力線に沿って落下する「コロナルレイン」と呼ばれる現象が、図3のムービーにてよく見えます。
※1 NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration(米国海洋大気局。この機関によって、活動領域に番号が振られる。)
※2 GOES: Geostationary Operational Enviromental Satellite(米国の観測衛星)
(図1)準X10クラス2例を含むXクラス4例、Mクラス27例、Cクラス54例を発生させた活動領域 NOAA 12673(南半球側)、および、9月の黒点相対数を底上げした活動領域 NOAA 12674(北半球側)。画像上方が地球の北。三鷹太陽フレア望遠鏡 連続光(Green) 太陽全面像。
(図2) 9月に発生した2例目の準X10クラスフレア(10-Sep_2017 16:06UT) の軟X線総フラックスカーブ(米国 NOAA GOES 衛星)。発生から14時間にわたって軟X線が増光していた。赤い点線で挟まれた時間帯が、図3のムービーに対応する。
(図3) 9月に発生した2例目の準X10クラスフレア(10-Sep_2017 16:06UT) のポストフレアループ。画像上方が太陽の北。
左側: 国立天文台太陽フレア望遠鏡 Hα中心波長狭帯域フィルター像 (FWHM 0.25 Å)。太陽の縁の外側を強調してある。
右側: ひので衛星 軟X線望遠鏡(XRT) Be-Thin フィルター像。Hα中心波長での部分視野と同位置同縮尺。
(画像をクリックすると動画が再生されます。)
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