国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

トピックス No.12 バックナンバー

2017年・2019年の皆既日食における白色光コロナの測光・偏光測定

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 皆既日食では、太陽の本体が月に完全に隠されるため、白色光コロナ (可視連続光で見えるコロナ) をリム直近から低い散乱光下で見ることができます。これはコロナグラフなど他の方法での観測では実現困難で、そのため白色光コロナは皆既日食において重要な観測対象となってきました。白色光コロナは、太陽が作り出す高温プラズマ起源のKコロナに加え惑星間空間ダスト起源のFコロナを含んでいるので、太陽の研究において重要なKコロナだけを取り出すには、K/Fコロナの直線偏光の違いを利用します。このため、日食においてもコロナグラフ観測においても、長く偏光観測が行われてきていました。

 私たちは2017年8月21日と2019年7月2日の皆既日食において、白色光コロナの高精度偏光データを得るため、アマチュアとの協力で多点観測を実施し、それぞれ2地点で観測に成功しました。例として図1に、2017年の日食で得られた白色光 (K+F) コロナの輝度と直線偏光の分布を示します。日食観測では、背景の空も真っ暗ではなくしかも偏光しているのですが、図では空の輝度・偏光成分は除去してあり、Kコロナの偏光成分である太陽円周方向に沿った直線偏光が見えています。

 このようにして得られた2017年日食でのK+Fコロナの偏光度を、赤道近くのストリーマー領域と極域について他の観測と比較したものが図2です。同じ日食でVorobievら (2020, Pub. Astron. Soc. Pac. 132, 024202) が得た偏光度 (緑線) は、私たちの結果と大変よく合っています。一方、日食と同じ日に得られた、Solar and Heliospheric Observatory宇宙機のLarge Angle Spectrometric Coronagraph (LASCO) C2装置のデータ (LASCO C2 Legacy Archive, http://idoc-lasco.ias.u-psud.fr/sitools/client-portal/doc/) (赤線) は、系統的に私たちの結果よりも小さくなっています。

 K+Fコロナの偏光成分は実際にはKコロナだけから来ており、したがって偏光成分はコロナの高温プラズマの量・分布を表します。偏光測定の誤差は、高温プラズマ量の見積もりの誤差につながります。

 日食のデータは、実際に日食が起こる稀な機会にしか得られませんが、一方で高精度の較正が可能です。しかも比較的広い視野でデータが得られるため、様々なコロナグラフデータ間の相互比較の標準とすることができます。日食のデータを利用することで、他の様々なデータの偏光誤差を較正して正しい高温プラズマの量を得ることが可能になるわけです。

 コロナの高温プラズマの量・分布を正しく求めることは、高温プラズマ生成のメカニズムの解明に重要です。さらに、太陽活動によって高温プラズマ量がどのように変化するのか把握するにも役立ちます。

 この研究成果は、Hanaoka, Y., Sakai, Y., and Takahashi, K. “Polarization of the Corona Observed During the 2017 and 2019 Total Solar Eclipses”として、Solar Physics誌 (2021, 296, 158; doi: 10.1007/s11207-021-01907-0) に掲載されました。

Polarization of the solar corona in the 21 Aug 2017 solar eclipse

図1. 2017年日食における、K+Fコロナの輝度・偏光マップ。視野は8.2×8.2 Rsunで、空の成分を除いてあります。背景のグレースケールマップが輝度を、橙色の短線の長さと方向で直線偏光を表しています。上は太陽の北。

Polarization of the K+F corona obtained by Vorobiev, SOHO/LASCO, and our observations

図2. 赤道付近のストリーマー(実線)と極(破線)のK+Fコロナの偏光度(pK+F)を、私たちの観測での結果(黒)、Vorobievらの結果(緑)、LASCO C2による結果(赤)、の間で比較したもの。

2021年11月24日更新

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

トピックス No.11 バックナンバー

近赤外線太陽全面像で見たインターネットワーク磁場

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 太陽の表面には、黒点を含む活動領域に加え、太陽全面にひろがる超粒状斑ネットワークの境界にも強い磁場があります。ではその超粒状斑の内部 (インターネットワーク) はどうなっているのでしょうか。実はその内部は、インターネットワーク磁場と呼ばれる、弱く小さな磁気要素に満たされていることが知られています。しかしその特徴については、可視光で観測した結果と近赤外線での結果が異なるなど、まだ議論になっている点があります。

 そこで私たちは、今まで高空間分解能で細かく見ることで観測されてきたインターネットワーク磁場を太陽全面像で広くとらえるという、全く異なった視点から探ることを試みました [1]。使用したのは、国立天文台の太陽フレア望遠鏡の定常観測で2010-2019年に得られた近赤外線のFe I 1564.8 nm吸収線の太陽全面偏光観測データです。

 図1は、視線方向磁場をあらわす円偏光の太陽全面像で、白黒がN極・S極に対応しています。左半分は比較的強い磁場 (1.1 kG = 110 mT) の信号で、黒点周辺や超粒状斑境界に強い信号が集中しています。一方、右半分には400 G (= 40 mT) 以下の弱い磁場を示しています。ざらざらした信号が見えていますが、これが小さなN極・S極の成分が太陽全面を覆いつくすインターネットワーク磁場です。Fe I 1564.8 nm観測では、大きなゼーマン効果により、弱い磁場 (400 G以下) の信号だけを取り出すことができるのです。

 右半分をよく見ると、太陽中心付近よりも周辺の方がより強くざらざらしているのがわかります。これは、インターネットワーク磁場では太陽表面に水平な成分が多いことを示しており、太陽表面に垂直な磁場を持つ超粒状斑境界とは対照的です。このような特徴を持つ超粒状斑の境界・内部の磁場構造の模式図を図2に示しました。インターネットワーク磁場に水平な成分が多いという結果はこれまでも出されていましたが、異を唱える結果も出されており、今回の私たちの結果は、従来とは異なった視点からの解析でもやはり水平成分が多いことを示したものになりました。

 また2010-2019年にわたるデータから、その間にインターネットワーク磁場の性質の変動が見られないこともわかりました。2010-2019年は太陽活動周期第24期の大半にあたり極小期も極大期も含んでいますが、それとは関係なくインターネットワーク磁場は安定に存在しているわけです。

 太陽は磁場に満ちた星で、様々な磁気現象を起こし、その影響は太陽系全体に広く及んでいます。しかし、激しい現象を起こす磁場とは別に、太陽全面を覆う弱い磁場も常に存在しています。このようなインターネットワーク磁場を解明することは、太陽の、そして星の磁場がどのように生まれどのように変転していくのかをとらえるためのひとつの基礎となります。

[1] Hanaoka and Sakurai 2020, Astrophysical Journal, 904, 63, doi: 10.3847/1538-4357/abbc07

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図1. 太陽表面磁場の2つの顔。2014年5月10日の、視線方向磁場をあらわすFe I 1564.8 nm吸収線の円偏光の太陽全面像です。上が太陽の北。白黒がN極・S極に対応しており、左半分には1.1 kGに相当する磁場信号、右半分には400 Gに相当する磁場信号を表示しています。

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図2. 超粒状斑の磁場構造の模式図。境界の強い磁場はコロナへと伸びていますが、それとは別にインターネットワークは、小さなスケールでいろいろな方向を向いた弱く水平な磁場に覆われています。

2020年11月25日更新

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

トピックス No.10 バックナンバー

太陽活動第25周期の開始を告げる極小は2019年12月

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 太陽黒点の数が2019年12月に極小になり、この時を境に太陽活動の第24周期が終わり第25周期が始まりました。2020年8月までに三鷹で得られた太陽黒点の観測データでは、黒点数の13カ月移動平均値が2019年12月に最小値1.52となった後増加に転じていて、現在もその傾向が続いています。太陽活動は、活発な時期と低調な時期がかわるがわる訪れますが、ここ数年は低調な活動が続いていました。第25周期が始まったことで、今後の太陽は極大に向けて活動が年々活発になり、宇宙飛行士や人工衛星運用、無線通信に害を及ぼしうるフレアや太陽からの物質噴出 (コロナ質量放出) の発生も増えていくと予想されます。

 図1は、2000年1月から2020年8月までの黒点数 (黒点相対数) の月平均値と13カ月移動平均値の変化を表したグラフです。ここでは月平均値が黒い線で描かれていますが、この線はギザギザして滑らかではありません。これをならしたのが赤い曲線で描かれている13カ月移動平均値で、これはある月とその前後各6カ月の計13カ月分のデータに重みをつけて計算するものです。太陽活動周期の終了と新しい周期の開始は、13カ月移動平均値が最も小さくなった「極小」によって判断されます。今回確かめられた2019年12月の極小はグラフの右側にある谷底に当たります。ベルギー王立天文台にある黒点観測の中央局SILSOでも、世界各地から集めた黒点相対数のデータを解析して、私たちと同じ結果が得られています [1]

 太陽活動第24周期から第25周期への移り変わりは、出現した黒点の磁場配置でもうかがえます。図2は、2018年1月から2020年8月までに確認できた黒点群・活動領域をそれが属する活動周期で分類して月ごとに集計したグラフです。第25周期に属する黒点群・活動領域は、2018年4月から2019年7月までにもたびたび出現していましたが、2019年11月という極小に近い時期以降にその数が増えていることがわかります。

 将来の太陽活動は、どのように推移していくでしょうか? 太陽活動が低下すると周期が長くなる傾向があるとわかっています。第23周期は12年以上も継続し、第24周期の活動 (黒点数・フレア発生数) は第23周期よりも低下しました。その一方で、第24周期はちょうど11年で終わり、今後の活動が長期的に低下するとは必ずしも言い切れません。太陽活動が地球の気候変動に影響している可能性も議論されていることから、新たに始まった第25周期が実際にどうなるか注目されます。

[1] Sunspot Index and Long-term Solar Observations (SILSO), “Solar cycle minimum passed in December 2019”, posted on 21-Aug-2020.

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図1. 2000年1月から2020年8月までの黒点相対数 の月平均値と13カ月移動平均値の変化。黒線は月平均値、赤い太線は13カ月移動平均値を表します。縦の点線は13カ月移動平均値の極小の時期を示し、その年・月をグラフの上辺に記しています。数値が小さい部分の変化を見やすくするために縦軸を対数目盛にしています。

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図2. 2018年1月から2020年8月までに確認できた黒点群・活動領域の月毎発生個数の変化。活動領域はNOAAによって認定され番号が付けられたもの、黒点群はNOAA番号を持たないが三鷹での観測でとらえられたものを指しています。黒点群・活動領域は、磁場の配置に基づいてそれが属している活動周期が判定され、月毎に集計されています。

2020年9月15日更新

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

トピックス No.9 バックナンバー

太陽フレアの謎の偏光をさぐる

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 太陽面で起きる爆発であるフレアが放つHα (エイチアルファ) 線の輝きには、偏光が見られるという報告がいくつもあります。一方それを否定する結果も出されており、その性質は謎でした。今回私たちは、多くのフレアの観測からこの偏光が一部のフレアでのみ起こる現象であることを明らかにしました。観測の結果からは、この偏光が惑星間空間へのコロナ物質の放出に伴う高エネルギー現象と関係あることがうかがえます。

 偏光は光 (電磁波) の振動方向に偏りがある状態です。フレアからのHα線が直線偏光しているということは、そこに何らかの非等方性があることを示しています。したがって偏光は、フレアを起こしている太陽大気の状態や加速された粒子を理解する手掛かりになります。そこで私たちは、三鷹の太陽フレア望遠鏡に従来よりも高い精度で偏光を測定できるよう工夫したHα偏光観測装置を組み込み、多数のフレアについて偏光を調べました。

 2004年から2005年にかけて観測された71個のフレアを解析したところ、ほとんどのフレアは偏光を見せませんでしたが、ただ1つだけ偏光を示すフレアを見つけることができました[1]。これを詳しく調べてみると、のようにHαで最も明るい場所とは異なる所で強い直線偏光信号が出ていることがわかりました。この結果は、Hαでの偏光が、どのフレアにも見られる一般的な現象によるものではなく特定のある種のフレアだけにしか見られない原因で発生していることを示しています。

 このフレアでは、コロナ質量放出という惑星間空間にプラズマを吹き飛ばす現象の兆候が現れていました。近年、Fermi衛星によるガンマ線観測では、コロナ質量放出に伴う加速陽子の存在の可能性が見えています。このような加速陽子がHαでの偏光の原因であるとすると、一部のフレアでしか偏光が見えないことも理解できます。粒子加速は、太陽に限らず宇宙全般で起こっているまだ未解明の部分が多い現象です。本研究のようなフレアにおけるHα線の偏光観測は、粒子加速のひとつの現場を明らかにし、粒子加速問題を理解する手掛かりのひとつになります。

[1] Kawate1 and Hanaoka2, 2019, The Astrophysical Journal, 872, 74, DOI:10.3847/1538-4357/aafe0f ( 1宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、2自然科学研究機構 国立天文台 )

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. 強い直線偏光が見られたフレアにおけるHα放射強度、直線偏光とフレア発生中の光球・コロナの画像。各画像中の等高線はHα強度の上昇している場所を表しており、直線偏光画像の緑矢印で示した場所に強い直線偏光が見られます。またコロナの画像の水色矢印は直線偏光の方向を示しており、コロナループ構造と対応しています。光球の白色光画像とコロナの紫外線画像は、ESA・NASA共同のSOHO consortiumの厚意によるものです。

2019年2月25日更新

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

トピックス No.8 バックナンバー

太陽系へ噴出していく太陽極域ジェットを皆既日食でとらえた

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 太陽コロナの中でジェットが噴き出しているというのは、人工衛星による軟X線や紫外線の観測によって良く知られていますが、ジェットで噴き出したプラズマがどこまで到達しているのか、太陽系にまで噴出して地球にも影響を及ぼす可能性があるのかはよくわかっていませんでした。これは軟X線・紫外線観測ではコロナの低空を見ているからです。一方皆既日食は、コロナの構造を太陽表面近くから数百万km上空まで一度にとらえられる稀有な機会です。皆既日食はひとつの観測地点ではたかだか数分間しか見えませんが、2017年8月21日の皆既日食は、本影が北米大陸を約90分かけて横断したことでこの間のコロナの時間変化を追跡できる絶好の機会となりました。私たちはこの日食をアマチュア天文家とともに観測し、アメリカのオレゴン州からテネシー州にいたる7カ所で白色光コロナのデータを得ることに成功しました。

 この観測で、極域コロナホールから上空に延びるポーラープリュームの中に、ジェット状の上昇流 (日食ジェット) がとらえられました[1]図1は日食によるコロナ画像に、紫外線によるコロナ画像 (ディスク部分) を重ねたものですが、太陽の両極から細い筋がたくさん上空に延びているのがポーラープリュームです。図に示した6カ所でジェットが日食中に見えました。このうちのひとつ (5番) を図2に示します。左側はジェット発生前で、右側の紫外線拡大像では18:01 UTにジェットが10万km程度の上空に伸びていますが、さらに 27分後の18:28 UTの日食の画像ではこのジェットがはるか上空100万kmを超えるところまで達しています。6つのジェットの平均上昇速度は毎秒約450 kmにも及び、最終的にはジェットは太陽系へと噴出していっていると考えられます。

 日食で見えた6個のジェット全てで上の例同様紫外線・X線ジェットが先だって発生しており、逆に日食に近い時間帯に起こった通常の明るさの紫外線・X線ジェットは全て日食ジェットを伴っていました。つまり低空で見えていた通常の極域ジェットは、実際にははるか上空まで吹き上がっていることが明らかになりました。図3に示すように太陽の極域からは高速太陽風が噴き出しており、その一部は地球へも到達していて地球に様々な影響を及ぼします。今回、日食以外では困難なコロナの上空までの観測をアマチュアとともに実現し、衛星による紫外線・X線観測を組み合わせることにより太陽表面から遠方まで切れ目なくコロナをとらえた結果、極域ジェットがその太陽風の源泉の一部となる様子をとらえることができたわけです。(紫外線画像は、NASA SDO及びAIA科学チーム提供による)

[1] Hanaoka et al., 2018, Astrophysical Journal, 860, 142, DOI:10.3847/1538-4357/aac49b

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図1. 日食のコロナ画像の月の部分にSDO衛星AIA装置による紫外線画像 (211 Å) を重ねたもの。緑の枠の部分で、ポーラープリューム中を高速で上昇する日食ジェットが見られました。日食画像は見やすいように処理してあります。

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図2. 紫外線(SDO衛星AIA装置によるEUV 211 Å画像) 及び日食で見えたジェットの例。左がジェットの発生前、右が発生後です。それぞれの左上隅は、日食画像の四角で囲った部分の紫外線での拡大像です。右の画像では、拡大像にあるように紫外線で18:01 UTにまずジェットが見え、その後18:28 UTの日食画像で、はるか上空まで伸びたジェットが見えています(それぞれ矢印で示したものがジェット)。これも日食画像は見やすいように処理してあります。

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図3. 太陽の極域から噴き出す高速太陽風と極域ジェットの模式図。ともに太陽系へと噴き出して、一部は地球にも達しています。

2018年6月27日更新

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

トピックス No.7 バックナンバー

ダークフィラメントの磁場は半球ごとに決まった方向を向いている

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 太陽表面には、プロミネンスと呼ばれる低温のガスがコロナ中に浮いているのが見られます。このプロミネンスは太陽のディスク上に来ると暗く見えるため、ダークフィラメントと呼ばれます。このプロミネンス/フィラメントが浮いているのは太陽表面の磁場に支えられているからですが、その磁場は、太陽内部のダイナモ作用で作られたものが表面に現れたものです。太陽内部はもちろん見えませんが、表面の黒点などの磁場を統計的に見ることで、太陽の磁場全体の構造と進化を探る研究が行われています。そこで今回はフィラメント磁場を統計的に調べました。

 国立天文台の太陽フレア望遠鏡では、2010年以来、赤外マグネトグラフにより磁場を測定する観測を行っています。そのうちのひとつであるヘリウム起源の10830 Å吸収線を用いた磁場観測では、直線偏光の測定からフィラメントの磁場の情報を得ることができます。図1は、水素のHα線でのフィラメント(a)とヘリウム直線偏光で見たフィラメント磁場(b)の比較で、フィラメント磁場がHα線で見えるフィラメント中の微細構造に平行で、全体としてフィラメントの軸方向から若干時計回り (右下の図参照)の角度で整列していることがわかります。

 太陽フレア望遠鏡ではこのようなデータが多く蓄積されているので、今回2010~2016年の観測の中から438個のフィラメントを選び、フィラメントの磁場がどちらを向いているのかを調べました (Hanaoka & Sakurai 2017, Astrophysical Journal 851, 130)。図2はそれぞれのフィラメントについて、太陽面上の緯度と、平均的な磁場方向のフィラメントの軸からの傾きを示したもので、点が集中している第2・4象限は、右側の絵のように、磁場がフィラメントの軸から、北半球では時計回りに、南半球では反時計回りに、つまりいずれも西側が赤道へ向かうように回転しているのに対応しています。このことは、フィラメントの磁場構造はそれぞれ勝手に生成されているわけではなく、太陽内部の大きな構造の磁場を反映しており、おおむね半球によって決まる構造を持っているということが判明したわけです。したがって、フィラメント磁場は太陽全体の磁場進化の中で形成されているのであり、フィラメントがしばしばコロナ質量放出の一部として噴出するのも、その磁場進化の過程の中で起こることであろうことが推測されます。フィラメント磁場観測から、ダイナモで生成された太陽内部の磁場から表面磁場への発展と、フィラメントの生成・噴出を解明するための重要な情報が得られるわけです。

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図1 2014年11月23日に観測された北半球のフィラメント。(a)はHα線での画像、(b)は磁場の方向を赤い線で示しています(背景は光球磁場)。右下隅では、フィラメントの軸方向を実線で、磁場の平均的な方向を点線で示していて、この例では磁場がフィラメント軸から時計回りにずれていることがわかります。(©国立天文台)

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図2 左は、今回調べた438個のフィラメントの、出現緯度と平均的な磁場方向のフィラメント軸からのずれ角の比較。シンボルの色や形はそれぞれのフィラメントの特性ですが、詳細は省略します。右は、左の図の各象限でのフィラメント(赤)における磁場(黒実線)の傾きを模式的に示したものです。(©国立天文台)

2018年1月10日更新

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

トピックス No.6 バックナンバー

三鷹太陽観測施設がとらえた、 大規模フレアを起こした黒点とその周辺の磁場構造の発達過程

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

 2017年9月6日から11日(いずれも日本時間)にかけて計4回、太陽で大規模フレア(爆発現象)が発生しました。フレアは、黒点を取り巻く活動領域に蓄えられた磁場のエネルギーが解放され、熱エネルギーとガスの運動エネルギーに変わる現象です。国立天文台三鷹キャンパスにある太陽観測施設でも、今回の大規模フレアを起こした黒点とその周辺の磁場構造がフレアの発生に至るまでどのように変化していったのか、その過程をとらえることができました。その画像・動画を公開します。

三鷹太陽観測施設による観測データ

  三鷹の「黒点望遠鏡」では、大規模フレアを起こした黒点が8月29日に太陽の東(向かって左)側の縁に現れ、太陽の自転によって西(向かって右)へ移動していき、西縁に消えていくまでの様子をとらえました(動画1)。赤道の少し南にあるのが当該の黒点です。この黒点は9月3日に急激に成長し、複雑な形状の黒点になったことが分かります。  この黒点は7月に現れて以後消長を繰り返していましたが、9月になって急激に発達しました。三鷹の地上望遠鏡群は、長期の継続観測によって、このような長寿命黒点の進化の様子もとらえています。


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動画1 「黒点望遠鏡」がとらえた2017年8月29日から9月9日の黒点の様子(©国立天文台)

●画像ファイル
 sr20170829-0909.zip(3.3MB)  (各画像のクレジットは「国立天文台」)
 ファイル名「srYYYYMMDD.jpg」の「YYYYMMDD」が年月日を表しています。

 また、三鷹の「太陽フレア望遠鏡」でとらえたこの黒点の磁場の様子が、図1と図2です。磁場観測には2時間程度の時間がかかり、途中で太陽に雲がかかるときれいな観測データが得られないため、天候がよくなかった9月3日~8日は、良いデータはとれませんでした。フレア発生前の9月2日にはまだ黒点の磁場は強くありませんが、9日には磁場強度が増加し、暗部にN極とS極が入り混じった複雑な磁場構造になっています。

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図1 「太陽フレア望遠鏡」がとらえた2017年9月2日(左)と9日(右)の光球の磁場分布画像(鉄の吸収線による観測):白がN極、黒がS極。丸で囲ったのが、大規模フレアを起こした黒点の部分です。(©国立天文台)

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図2 「太陽フレア望遠鏡」がとらえた2017年9月2日(左)と9日(右)の彩層(太陽表面の少し上の大気の層)の磁場分布画像(ヘリウムの吸収線による観測):白がN極、黒がS極。丸で囲ったのが、大規模フレアを起こした黒点の部分です。(©国立天文台)

  「太陽フレア望遠鏡」ではこのような複雑な磁場が起こすエネルギー解放にともなう様々な現象もとらえており、そのひとつとして9月11日の太陽の西縁で起こった大規模フレアの後に「ポストフレアループ」が観測されています(図3)。

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図3 9月11日の太陽の西縁で起こったフレアの後の「ポストフレアループ」(太陽フレア望遠鏡・Hα太陽全面撮像装置による観測):フレアで加熱されて高温になったガスが、その後1万度程度まで冷え、磁力線に沿ったループ状の構造を呈しているのがわかります。(©国立天文台)

【解説】太陽表面磁場とフレア
 磁場は、太陽の内部でつくられます。太陽表面下の磁束管(磁力線の束)が浮上し、太陽表面を突き抜けたときの断面が黒点です(図4)。

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図4 太陽の磁束管と黒点の模式図:太陽の縁を横から見ています。(©国立天文台)

太陽面下でねじられた磁束管が浮上したり、あるいは、磁束管が浮上してから黒点の回転運動によって磁場がねじ曲げられたり、複数の磁束管が接近して現れたりして太陽表面に複雑な磁場構造ができると、上空のコロナ磁場にエネルギーが蓄えられた状態になると考えられています。
 フレアが起こる現場であるコロナの磁場は、表面磁場よりもはるかに弱く、直接測定は困難です。近年では、太陽表面の精密な磁場構造の測定からコロナ磁場を正確に推定して、コロナにどれだけの磁気エネルギーが蓄積されているかを求めることができるようになっており、太陽表面磁場は、フレア発生メカニズムの解明に重要なデータです。

精度のよいフレア予測を目指して

 9月6日の大規模フレア発生後、情報通信研究機構などから、地球への影響に対する注意が喚起されました。幸いなことに、今回は大きな被害は起こりませんでした。しかし、太陽フレアは、地球のまわりの人工衛星や宇宙飛行士に影響を与えたり、地上での通信障害や停電などの被害を引き起こしたりする場合があります。どのような磁場構造がフレアを起こすきっかけとなるのかを解明できれば、磁場構造の変化を監視することにより、フレアの発生を事前に精度よく予測できるようになるものと期待されます。
 天候に左右される地上観測(三鷹)では、9月6日の大規模フレア発生前後の磁場分布画像がとれませんでしたが、太陽観測衛星「ひので」がその詳細な観測に成功しています。今後、太陽フレア望遠鏡と「ひので」のデータを相補的に用いて詳細な解析を行うことにより、フレア発生メカニズム解明の研究が進展すると期待されます。

2017年09月20日更新

国立天文台 太陽観測科学プロジェクト

トピックス No.5 バックナンバー

巨大黒点の出現と、「ひので」がとらえた磁場構造

国立天文台 ひので科学プロジェクト
太陽観測所
宇宙航空研究開発機構

  2014年10月下旬、太陽に巨大黒点が出現しました。10月25日に開催されていた国立天文台「三鷹・星と宇宙の日」会場では、来場者の皆様と巨大黒点の話で大変盛り上がりました。この黒点は10月16日に端から現れ、発達しながら自転によって移動し、30日まで見えていました(図1、図2(a)参照)。黒点群全体の面積は10月26日に地球約66個分(※1)となり、これは今の活動周期最大であるとともに、約24年ぶり(1990年11月18日以来)の大きさでもあります。その後11月になって太陽の自転によって再び姿を現しました(図2(b))。

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図1 国立天文台太陽観測所のフレア望遠鏡が取得した2014年10月18日から28日の連続光全面像(抜粋、大黒点群の部分のみを重ねたもの)。

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図2(a) 2014年10月24日に取得した国立天文台太陽観測所の太陽フレア望遠鏡による連続光画像。

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図2(b) 2014年11月15日に取得した国立天文台太陽観測所の太陽フレア望遠鏡による連続光画像。

 図3と図4はそれぞれ、10月24日と11月15日に太陽観測衛星「ひので」が捉えたこの巨大黒点です。そして(a)の画像は、私達の目で見える光で見た画像、(b)の画像は磁場の画像で、N極を白、S極を黒で表しています。

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図3(a) 10月24日の連続光画像
(横:約20万km × 縦:約12万km)

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図4(a) 11月15日の連続光画像
(横:約12万km × 縦:約12万km)


図3(b) 10月24日の磁場分布画像
(横:約20万km × 縦:約12万km

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図4(b) 11月15日の磁場分布画像
(横:約12万km × 縦:約12万km)

 黒点は周りよりも温度が低いために黒く見えています。温度が低いのは、黒点で磁場が強いために、太陽中心部の熱が伝わりにくいことが原因です。そして、この磁場が、「フレア」と呼ばれる太陽大気中で起こる爆発の原因と考えられています。フレアの発生メカニズムを理解するため、「ひので」は太陽表面の磁場や時間変動を精密に測定しています。
 10月下旬、11月中旬とも、右側の黒点(先行黒点)がN極、左側の黒点(後行黒点)がS極です。11月の画像では、先行黒点の左端がS極、後行黒点の左端がN極に見えます。これはまだ黒点が太陽の端にあり、斜めから観測しているための見かけ上のものです。
 10月下旬の磁場の画像ではN極とS極が入り組んでいます。これはフレアを起こしやすい構造です。実際、10月下旬は巨大フレアが6回起こりました。11月15日・16日には中規模クラスのフレアが起こったものの、磁場の構造は10月ほど複雑ではないように見えます。今後、はたしてフレアは起こるのでしょうか。今後も注意深く観測を継続します。

 また、地球への影響はどうでしょうか。フレアが起こると、電気を帯びた粒子が地球にまで飛んできて、磁気嵐が起こる場合があります。10月下旬は多くのフレアが起こりましたが、地球への影響はあまりありませんでした。この理由は研究の対象で、まだ推測の域を出ません。一説には、黒点上空の磁場が強いためにプラズマの噴出を押さえ込んでしまったのではないかと考えられています。11月中、10月下旬ほど多くのフレアが起こらなかったとしても、上空の磁場が衰退して地球に影響を及ぼすフレアが起こる可能性はあります。今後の推移に注目が必要です。

2014年11月19日更新

国立天文台 太陽観測所

トピックス No.4 バックナンバー

日食観測でとらえた、100年ぶりの深い太陽活動極小におけるコロナ

 国立天文台太陽観測所では、2008年8月・2009年7月の皆既日食において太陽活動が100年ぶりの低さとなった極小期の太陽コロナをアマチュアの皆さんとともにとらえ、このような時期ならではの興味深い結果を得ることができました。

 2008年・2009年に起こった皆既日食はちょうど太陽の極小期に、それもここ数十年続いた特に活発な太陽活動中の極小とは異なり、およそ100年ぶりとなる深い極小前後に起こった日食でした。太陽コロナは太陽活動と密接に結びついた振る舞いを示すため、これらの日食はこのような極小におけるコロナを知る絶好の機会となりました(図1)。そこで、2009年にはアマチュアの方にも観測を行うことを呼びかけ、実際に観測に成功した方のデータを2008年の我々のデータと合わせて解析し、以下の結果を得ることができました(Hanaoka et al. 2012, Solar Phys. 275, 79)。

 まず、20世紀を通じて数多く行われたコロナ全体の明るさの測定から知られる今までの極小時のコロナ輝度よりも、2008年・2009年日食におけるコロナ輝度はさらに低い事がわかりました。コロナ全体の明るさというのはコロナの物質量全体を表わしているので、この結果は低い太陽磁場活動に合わせてコロナ物質量が減少していることを表わしており、これは太陽磁場とコロナ生成の関係を考えるヒントになる事実です(図2a)。このコロナ物質量の測定というのは、人工衛星によるX線・紫外線の観測で常時コロナを見ることができる現在においても、皆既日食時にしかできない測定です。
 また、太陽からある程度離れたところで見えるFコロナについても新しい結果が得られました。太陽近くで太陽本体に付属しているいわゆるコロナはKコロナと呼ばれるもので、太陽活動により大きく増減するのはこちらです。一方、Fコロナは太陽系ダストを見ているもので太陽活動の影響を受けないと言われていますが、このFコロナの明るさを知るにはKコロナの寄与を除く必要があり、これが難しいため今までのFコロナの輝度の測定にはかなりばらつきがあり、正しい明るさが知られていませんでした。今回我々が測定したのはK+Fコロナの合計ですが、ちょうどKコロナが大変暗い時期に測定ができたので太陽から遠いところでは測定結果はほとんどFコロナだけの明るさを表わすと言ってよく、これによりFコロナの輝度の上限を今までになく正確に求めることができました(図2b)。

 2009年の日食は天候に恵まれず、専門家の観測はいずれも雲の影響を受けており、快晴下で観測できたのは船で出かけたアマチュアだけでした。今回のデータはこの日食をとらえた貴重なデータとなっており、広範囲に観測に出かけるアマチュアの方の天文学への貢献の可能性を示す結果ともなっています。

corona001

図1:2008年8月1日及び2009年7月22日の皆既日食時のコロナの様子。


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図2:太陽中心からの距離1.1太陽半径から4.5太陽半径までの円周上におけるコロナの輝度分布。2008年を点線、2009年を実線で、交互に色を変えて示しました。(a)にはSaito(1970)による極小期コロナの輝度分布(◇)、(b)にはMorgan and Habbal(2007、△)、Fainshtein et al.(2010、+)、Durst(1982、*)によるFコロナの輝度分布を示しましたが、2008年・2009年日食での輝度は従来の極小期コロナより低いばかりでなく、Fコロナのみの測定値の一部をも下回っています。

2012年09月14日更新

国立天文台 太陽観測所

トピックス No.3

【お知らせ】

太陽観測所は、長期継続観測とデータベース構築の業績により、平成24年度国立天文台台長賞を受賞しました。受賞式の様子 表彰状 記念プレート

Ca-K

図1:20世紀前半の太陽活動周期変動を表わすカルシウムK線画像(疑似カラー)。通常見えている太陽の表面よりも上空の「彩層」と呼ばれる部分の構造を示しています。太陽活動は約11年周期で盛衰を繰り返していて、活発になると、周囲より高温のため写真で明るく(白く)見えるプラージュと呼ばれる領域が多く現れます。このプラージュは太陽のどこにどのような活動領域があるかを示すとともに、全体的な活動度のよい指標となっています。

図2:観測に使っていたシデロスタット(上図、太陽を追跡して鏡で光を観測室に導く装置)とスペクトロへリオグラフ(下図、スリット分光器と太陽像の走査の組み合わせで非常に狭い波長範囲の画像を記録する装置)が、三鷹キャンパスで稼働していた時の写真(写真提供:天文情報センターアーカイブ室)。

大正時代の太陽の姿がよみがえる
〜約60年分のカルシウムK線太陽写真をデジタル化して公開〜

 国立天文台太陽観測所は、1917年から1974年(大正6年から昭和49年)のおよそ60年にわたって観測された、カルシウムK線(注)太陽全面像の写真乾板・フィルムの記録を、デジタル化する作業を行ってきました。
 太陽活動の長期変動が話題になっている昨今、この約60年分の蓄積データを、多くの方に役立てていただくため、太陽観測所ウェブサイトにて公開することにしました(公開サイトはこちら)。

 国立天文台の前身のひとつである東京天文台は、1917(大正6)年から1974(昭和49)年にわたって、このカルシウムK線での太陽写真を、スペクトロへリオグラフという装置を用いて撮影してきました。
 1917年、当時東京天文台があった東京府東京市麻布区(現在の東京都港区)で観測を始め、1923(大正12)年の関東大震災の後しばらくして東京府北多摩郡三鷹村(現在の東京都三鷹市)へ移転し、観測を続けました。このおよそ60年の間に、通算8500日あまりの写真乾板やフィルムでの観測データが蓄積されています。

 太陽観測所は、この長期にわたる貴重なデータを多くの方に役立てていただくことができるよう、デジタル化して公開しました。私たちの他、インド・アメリカにも20世紀初めからのカルシウム画像データがありますので、これらを合わせると、100年間の太陽活動を詳細に知ることができます。
 400年の歴史のある黒点の観測などから、太陽活動には長期変動があることが知られています。一方、太陽の近代的な磁場観測は始まってまだ日が浅いため、カルシウム画像により太陽の磁気活動の様子を100年前までさかのぼって知ることは、その変動の地球への影響を研究する上でもたいへん重要です。

注:
太陽光スペクトルの紫色の波長帯には、カルシウムK線という吸収線(393.3ナノメートル)があり、この波長の光で撮影した太陽像は、太陽の磁気活動の様子や地球への紫外線の放射量をよく表すものとして知られています。

図3:太陽観測所で保管している、カルシウムK線太陽像が写った写真乾板。

2011年11月15日更新

国立天文台 太陽観測所

トピックス No.2

IRmag

 赤外ストークス・ポラリメータ観測例。波長1.56μmで測定した太陽全球の光球面磁場(赤がN極、青がS極。2010年4月29日)

赤外ストークス・ポラリメータによる磁場観測

 黒点の周辺で起こるフレア爆発や太陽コロナの高温への加熱は、太陽表面の磁場のエネルギーに起因するもので、したがって太陽の研究には磁場の観測が必須と言えます。磁場の強度と向きはスペクトル線の偏光度を測定することにより得られます。この偏光を精密に測定するために、私たちは新たに赤外ストークス・ポラリメータを太陽フレア望遠鏡に導入し、2010年春から定常観測を行っています(観測画像はこちら)。

 ゼーマン効果によって偏光したスペクトル線が分離しますが、その間隔は波長が長いほど大きいので、赤外線を用いた偏光観測では弱い磁場まで高精度で測定が可能です。赤外ストークス・ポラリメータでは波長1.56μmにある鉄の吸収線で光球の磁場、1.083μmにあるヘリウムの吸収線で彩層の磁場を測ります。

 赤外ストークス・ポラリメータは小型ながら分光器を搭載しています。分光器のスリット上で太陽像を動かしながら太陽の北半球と南半球をそれぞれスキャンして、1時間ほどかけて全面のマップを作ります。現在この全面マップを作る観測を1日に数回行っています。この赤外ストークス・ポラリメータで高精度の磁場観測を行い、太陽のなぞの解明に迫ります。

 赤外ストークス・ポラリメータについて、詳しくは天文台ニュースをご覧ください。

2010年10月29日更新

国立天文台 太陽観測所

トピックス No.1

Moreton wave

 モートン波はフレア爆発によって生じる衝撃波で、今回観測されたものは実に毎秒約900km(時速300万km!)の速度で移動していることがわかりました。2月7日に観測されたモートン波のムービー:全面像(左:観測画像、右:各画像間での差分)、部分像

再び起こり始めた太陽面爆発

 2010年2月に現れた活動領域NOAA11045では、極小期にはあまり見られなかった活動現象が見られました。2月7日に起こったフレア(Mクラスに分類される中規模なもの)ではモートン波(Moreton wave, 左図矢印)と呼ばれる現象が起こったことが国立天文台・京都大学の研究者によって指摘されました。太陽観測所のHα観測ではその姿をとらえるのに成功しました。

 また、2月8日には同じHα観測でフィラメント(コロナ中に浮かぶ温度数千度のプラズマ塊)が飛び出す現象が観測されました(2月8日に観測されたフィラメント放出現象のムービー)。こちらもやはりフレア爆発に関係した現象で、速度は遅く毎秒約50km(それでも時速18万km)ですが、この種の現象では太陽が持っていた物質が直接太陽系空間に放出されます。さらに加速されて地球近傍まで到達することもあり、激しいオーロラや人工衛星の障害の原因となります。

 このような太陽面爆発はその影響を地球にまで及ぼすことがあり、私たちはその発生のメカニズムを研究しています。

2010年04月21日更新