フレキシブル・プリズムを用いたイメージ・スタビライザー
天体を観測する際に、望遠鏡の振動や大気の乱れは天体の画像を検出器上で動かすので、露出時間が振動や乱れの時間スケールより長い場合には、画像の劣化の原因となります。これを避けるために、十分早い応答時間で観測天体を追尾するようなシステムが考案されており、一般にイメージ・スタビライザと呼ばれています。普通用いられるのは可動鏡(Tip Tilt Mirror)を利用したものですが、我々はプリズムを用い、反射でなく屈折により光束を曲げて像の安定化を達成することを試みています。可動鏡を用いると、光路を折り曲げた配置をとらざるを得ませんが、プリズムの場合にはまっすぐな光路がそのまま使えるという利点があります。
我々が注目したのはキャノン(株)が1992年に開発したフレキシブルなプリズムで、製品名はバリアングル・プリズム(Vari-Angle Prism, VAP)です。各社のビデオカメラの手ぶれ防止用に使われているほか、キャノンではこれを組み込んだ双眼鏡も製造しています。2枚の平面ガラスと蛇腹で囲まれた空間に屈折率の高い透明液体を満たしたもので、2枚のガラスの一方は縦方向、一方は横方向に2.5度まで傾けることができます。光束の最大振れ角は約1度です。ガラス板の傾きはソレノイドコイルで電気的に駆動でき、応答速度は仕様では20Hzまでとなっています。ソレノイドコイルに流す電流を変えることにより、プリズム前・後面のガラス板を指定の角度に傾けることができ、頂角可変のプリズムを実現しています。
現在、このシステムは太陽フレア望遠鏡に組み込まれて試験運用中です。
- 文献
- T. Sakurai et al.: "A Flexible Prism Used as an Image Stabilizer",Solar Phys.,205, 201-208, 2002