岡山天体物理観測所 ベクトル・マグネトグラフ

岡山天体物理観測所のマグネトグラフは、偏光変調用の光学系と、偏光解析用の電気系から構成されます。2枚の斜め反射鏡によって生ずる機器偏光は、入口にある平行平面板とバビネ補償板とによって取り除かれます。その後、光はモータで回転する1/4波長板によって変調を受け、ウォラストンプリズムにより2本の互いに直交する直線偏光に分離されます。1/4波長板の回転周波数をωとすると、出射光のうち、振動数2ωの成分が入射した円偏光、振動数4ωの成分が入射した直線偏光を表します。光は分光器に導かれ、2本のスペクトルを形成します。光の強度を光電増倍管で測定し、周波数2ω、4ωの成分に分ければ、入射光の偏光状態がわかります。光電増倍管は、ウォラストンプリズムで分けられた2本のスペクトルの各々に対して、吸収線(Fe I 5250Å)の両翼に1つずつと、40Åくらい離れた連続光(幅15Å)の部分に置かれているので、全部で6本あります。吸収線両翼の光電増倍管の出力は、スリット背後に置かれたガラスブロックを傾けて吸収線の位置を動かし、バランスさせます。逆に、ガラスブロックの傾きを読むことにより、ドップラー偏移が検出できます。
 マグネトグラフは1982年12月に定常運用に入りました。観測を始める前の調整に30分~1時間かかるほかは、観測自体は計算機制御で自動的に行われます。活動領域を通常は、10秒角ステップで東西50点、南北45点観測するか、6秒角ステップで東西70点、南北65点観測します。1回の観測(ラスタースキャン)は60~90分かかります。観測終了後、ポテンシャル磁場の磁力線を計算して表示することができます。観測結果は磁気テープに記録し、1年毎にまとめて印刷・出版しました (1982~1995)。1年間の観測回数は、200~300スキャンです。
研究会
第1回太陽磁場観測シンポジウム(1983年1月18-19日) 集録
第2回太陽磁場観測シンポジウム(1984年8月30-31日) 集録

研究成果

解説記事
牧田貢:「太陽磁場測定装置-岡山天体物理観測所太陽ベクトルマグネトグラフの始動-」、天文月報、1983年11月号

マグネトグラフの運用終了と今後

三鷹構内に建設した太陽フレア望遠鏡は、4本の望遠鏡を同架した太陽観測装置で、連続光による黒点観測、Hα線による彩層の観測、磁場ベクトルの観測、ドップラー速度場の観測を同時に実施できます。磁場、速度場の観測は、波長分離用に狭帯域フィルターを用い、CCDカメラにより視野全体の測定を1分足らずで完了します。1992年から岡山のマグネトグラフと平行運用を行い、信頼性も確立したので、1995年末で岡山のマグネトグラフは定常運用を打ち切りました。
1982年以来16年間にわたってマグネトグラフを制御してきたミニコン、Melcom 70/60Bも1998年5月に撤去されました。マグネトグラフの光学系と電気系は現在、三鷹・太陽塔望遠鏡の地下展示スペースに保管されています。