アマチュアの皆さんが撮影する皆既日食のコロナ画像は大変質が高く、撮影時に少しの注意をするだけで科学的にも役に立つデータになります。今回の日食では、天文学の研究にも貢献できるデータを皆さんの手で撮ってみませんか?



 アマチュアによるネットワーク観測 


なぜ今の時代に日食でコロナを観測するのか?

現在太陽コロナの観測は人工衛星が主流になっていますが、衛星による観測で用いられているX線・極端紫外線では、100万度〜500万度以上の幅広い温度を持つコロナの中で特定の温度の部分しか見えません。一方、皆既日食で見えるコロナ(白色光コロナ)は、温度によらずコロナ物質全体の分布を示すものです。特に内部コロナの白色光観測はコロナグラフでは不可能で、皆既日食でのみ可能な観測です。皆既日食はコロナのいろいろな科学的観測の機会ですが、白色光コロナ観測はその中でも重要な意味があります。


白色光コロナの高S/N観測:必要なものはデジタル一眼レフ+小望遠鏡(普通の装備)

デジタル一眼レフカメラの画像は、ちゃんとした測光に使えるだけの高い質があります。これと小望遠鏡または望遠レンズを使うことで得られたデータは、多数の画像のコンポジットにより「白色光コロナの高S/N観測」を実現し、コロナの微細構造を定量的に明らかにできるものです。ただ、後で定量的な測光に使うためには撮影時にそれなりの注意も必要なので、これは下で述べます。


アマチュアによる観測が重要な理由:ネットワーク観測

今回の日食ではアマチュアの観測者は中国から太平洋に至る広い範囲に分散するので、 多数のアマチュアの方が参加するネットワークを組むことができます。今回多くのプロの研究者の観測隊も派遣されますが、大半中国での観測となり、アマチュアによる広範囲のネットワーク観測は 専門家にもできないデータ蓄積を可能にするものです。コロナの研究では振動現象など短時間の変化が注目されており、ネットワーク観測であれば時間変化がとらえられるかもしれません。 今回は船で日食に行かれる方も多いと思いますが、 最も重要なターゲットである内部コロナは大変明るいので、船上でもブレない短時間露出でも十分データが得られます。

きれいなコロナの写真を撮るだけでなく、少しの手間をかけて以下の注意をしたデータを取って頂き、科学的データを取る観測をしませんか? 協力していただける方は後で、一番下にある連絡先にメールをください。 共同研究を企画したいと考えていますので、どのようにデータをやり取りするのか、など連絡します。


 科学観測データを取るための撮影の際の注意 


簡単に書くと注意点は以下のようなものです。なお、これらは単にコロナの画像処理を行う場合にも必要なので、科学的データ云々とは関係なくてもやっておくと、自分の写真をもとに処理した素晴らしい画像を得ることができますので、お勧めです。

  1. カメラ設定に注意!
    RAW記録、その他補正なし
  2. 「較正用データ」も取るのを忘れずに!
    ダーク画像、フラット画像も撮る
    部分食も撮る(コロナの明るさの基準)

  3. 多段階露光でたくさん撮る
  4. 可能なら長焦点レンズでの撮影に挑戦

参考のため、カメラの設定各画像の露出時間について、私たち自身が計画している観測で採用予定のものを掲げました。

詳しくは以下のとおりです。

  1. カメラ設定  

簡単に言うと、パソコンでの後処理(現像)用の設定をする、ということです。コロナの正しい明るさの分布を得るために、以下のような設定をします。
・RAW記録は必須
・撮影の際の自動補正はオフする
カメラによっていろいろな機能がありますが、基本的に全部オフしてください。
 - ISO感度自動設定オフ
 - ホワイトバランス自動補正オフ
 - 画像の鮮鋭化のような処理オフ
 - コントラストの自動調整などオフ
・データ記録の際圧縮する機能のあるカメラでも、圧縮なし、またはロスレス圧縮に設定する
・カメラの時計はできるだけ合わせる


  2. 較正用データも取る  

(1) ダーク画像とフラット画像
ダーク(dark)とは光が当たっていないときの画像、フラット(flat)とは均一な光が当たっているときの画像です。カメラで撮影した画像は、一見正しい明るさの分布を再現しているように見えますが、実際にはいろいろなむらの影響を受けています。科学的データ解析に使用する場合はこれらを補正する(これを較正といいます)必要があり、そのためにダーク画像・フラット画像を使います。
●ケチらずたくさん取りましょう

ダークは望遠鏡・レンズにフタをした状態で、実際に使用する露出時間(1/1000〜1秒など)で真っ暗な画像を撮影します。ひとつの露出で何枚も取るのが望ましいです。
フラットは、明るさが均一な光源を撮りますが、実際にはコロナ撮影に使う光学系のまま青空へ向けて、いろいろな露出時間で撮影するのがよいでしょう。これもいろいろな方向の空をいろいろな露出で何枚も取るのが望ましいです。なお、望遠レンズを使用する場合、絞りは変えてはいけません。
一見無駄に思える画像ですが、ケチらずたくさん撮ることが後のデータ処理に役立ちます。日食の直前・直後に撮るのがベストですが、出発前にもテストを兼ねて撮っておくのが安全です。

デジタル一眼レフのダーク画像・フラット画像の実例
ダーク画像の例です。一様ではなく、固有のパターンが見えています。 フラット画像の例です。コントラストを強調すると、こちらも一様ではなく、実は結構感度むらがあるのがわかります。


(2)コロナの明るさの基準となる部分食画像
これはどうしても無いと困るものではありませんが、できるだけ撮っておいていただきたいものです。
太陽光球の絶対輝度はわかっているので、部分食の太陽をNDフィルターを使って撮影すると、 後でコロナと光球の明るさを比べて、コロナの正しい明るさを求めることができます。 空の透明度は変化するので、皆既に近い時間帯で撮るのがよいですが、実際には部分食のいろいろな形のときに撮っておくのがよいでしょう。
ただしNDフィルターの正確な濃度が必要になりますので、よい条件でデータがとれた方が使ったフィルターを 後で国立天文台で分光光度計などで測定して正確な濃度を出すことを考えます。そのために、特にいくつもレンズを持っていく方は、どのフィルターを使ったか後でわかるようにしておくようお願いします。


  3.多段階露光でたくさん撮る  

コロナ輝度の広いダイナミックレンジをカバーするために露出を広範囲に変えて撮ることが必要ですが、これは既に皆さん予定していると思います。白トビの無い短い露出が重要ですし、またこれもケチらずたくさん撮りましょう。なお、こちらも望遠レンズを使用する場合、絞りは変えてはいけません。


  4.可能なら長焦点レンズでの撮影に挑戦  

広い視野でのコロナ写真を撮る方は多いのですが、デジタル一眼でとらえる内部コロナの微細構造は素晴らしいものがあります。科学的データとしても内部コロナの方が重要なので、あえて長焦点(35mm判換算で1000mm程度かそれ以上)で内部コロナをとらえてみませんか?


 連絡先

ご質問のある方、また日食後に「良いデータが取れたので科学的データとして役立てたい」という方、 など eon-admin@solar.mtk.nao.ac.jp に連絡をお願いします。


本企画の代表:国立天文台太陽観測所・花岡庸一郎